効力感と無力感

Self-efficacy and Self-inefficacy

 君が目標を達成するために必要なことは、「できる」という感覚を持つことだ。君が「できる」と信じているなら、君はできるようになる。君が「できない」と思い込んでいるなら、君はできるようにならない。「できる」は効力感であり、「できない」は無力感である。
 君に必要なのは、もちろん、自己効力感だ。「自分が望む結果を生み出す力が、自分にはあるんだ」という感覚を持っていると、君は、自然に、目標を達成する方向に行動を起こすだろう。なぜなら、君は、自分が望む結果を生み出すことができると思っているからだ。
 逆に、君が無力感を持っていると、君は、目標をかんたんにあきらめてしまうだろう。なぜなら、君は、やってもムダだと思っているからだ。
 効力感も、無力感も、これまでの君の経験の中で形成されている。どちらも無意識の中に埋め込まれてしまうので、保護者や教師や周囲の人たちを含めて、君を取り巻く環境がとても重要になる。君の取り組みや君の成長を認めて、君を励ますような環境であれば、君は自己効力感を培うことができる。逆に、君を誰かと比較して、君を低く評価するような環境であれば、君は自己無力感を抱いだかされてしまう。
 過去の、相対評価を使っていたときの学校教育は、生徒が真剣に取り組んで、自分なりに学力の増進を感じていたとしても、テストなどの結果で、5 と 1 を各 7%、4 と 2 を各 24%、3 を 38%のように、生徒たちを割り振って評価していた。2や1に評価された生徒たちの中にも、個人として学力を伸ばしていた生徒が何人もいたはずなのだが、個人として評価されることはなかった。クラス全員が努力すればするほど、31%の生徒たちは無力感を感じていた。残念ながら、相対評価は、生徒たちの多くに無力感を形成していたのだ。
 さいわい、現在の通知表評定は、相対評価ではない。誰かと比較されることなく、小学生は「よくできる」を目指すことができるし、中学生は「A」を目指すことができる。教育の在り方としては、真っ当な評価方法である。とくに重要なのは、小学生も、中学生も、各教科の 3 番目の項目、「主体的に学習に取り組む態度」という観点だ。
 では、「主体的に学習に取り組む態度」は、どのように評価されるのか。
① 粘り強い取組を行おうとする側面(各教科等の観点の趣旨に照らし、知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた中で粘り強く行う側面のこと)
② 自らの学習を調整しようとするとする側面(自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなどの「自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているか」という意思的な側面のこと)
 国語の文法で説明すれば、「粘り強い取組を行おう」の助動詞「う」は、強い気持ちを表す「意志」である。「自らの学習を調整しよう」の助動詞「う」も君の意志である。したがって、君自身が「積極的に取り組んでいるかどうか」が評価の対象だ。もし、君が積極的に取り組んでいるにもかかわらず、「主体的に取り組む態度」が「できる」「がんばろう」や「B」「C」で納得できないときには、保護者に相談して、その理由を学校の先生に聞いてもらうといい。そうすれば、なにをすればいいのかがわかる。
 「主体的に学習に取り組む態度」の観点で「よくできる」「A」と評価されているなら、君は、自信をもって、粘り強く取り組んでいけばいい。自己効力感が形成され、グングンと学力が伸びていくはずだ

山手学院 学院長 筒井 保明